私が子供のころ、スパゲッティと言えばミートソースかナポリタンの二択でした。
正確には、その二つしか知りませんでしたし、スパゲッティとはこの二種類しか無いと思っていました。
バブル好景気の頃、世間では「イタ飯」が大ブームになりました。
カチッとしたフレンチレストランよりもカジュアルで、陽気なイメージのイタ飯屋。
私が住む田舎にも、専門的なイタリア料理店や、いわゆるパスタ専門店もオープンし、手軽でオシャレな雰囲気のパスタ屋さんが流行っていました。
そんなある日、田舎の少年も友人に誘われ流行りのパスタ屋さんに行ってみることに。
さすがに私もパスタという言葉と、ミートソースとナポリタン以外にも種類がある(らしい)ということも知っていたような気がしますが、正直なところ、私はこれまで時までパスタ専門店に入ったことは無かったのです。
店内に入り、早速メニューを見て驚きました。
そこには30種類近いパスタの名前が並んでいたのです!
クリームソース、トマトソース、和風、カレー風味、オイルスパ、あとは聞いたことも無い謎の調味料やソースの名前がズラリ・・・。
この時初めて見にしたペペロンチーノというカタカナの羅列は忘れられません。
各商品に付記されている説明書きを読み、決めました。
「サーモンとキノコのクリームパスタ」
新たな扉を開くべく、人生初のクリームソースパスタなるものに挑戦することにしたのです。
平然を装いながら待つこと数十分、運ばれてきたソレは、サーモンのソテーとホウレンソウを頂きに、シメジやマッシュルームをまとわせた白色のソースに身を絡ませ、ケーキのモンブランの如く鎮座しておりました。
ケチャップの跳ねを気にするのとは違う、別の緊張感につつまれ頂くことに。
キノコの風味の濃厚なクリームをまとったスパゲッティ、表面に少し焦げ色が付き、程良い塩味のサーモンソテー、しつこさを抑える為に敢えてそうしたのであろうボイルホウレンソウ・・・。
美味しかったです。
初めて経験した味でした。
一気に完食し、改めてメニューを見直しました。
これだけの種類を思いつく想像力と、既成概念に囚われない柔軟な思考、それを生み出す豊富な知識、幾度となく試作・試食を重ねたチャレンジ精神。
衛生的で安全であることは最優先されますが、食材、調味料、調理方法、何をどう使いどのように調理するか、作り手の柔軟な発想と知識があれば、料理の可能性は果てしない広がりを見せるのだと思い知らされました。
それ以来、料理に限らず、従来とは違う角度からの思考やアプローチを試みること。
自分だけの狭い見識だけでは無く、他の方の知恵や経験に耳を傾けること。を心がけるようになりました。
探求心を忘れずに思考する・謙虚に教えを乞う・積極的に行動する。
あの日のスパゲッティの感動をきっかけに、多くのことに気づいたような気がします。
年齢を重ねても、それらを忘れることなく、日々の業務に精進して参りたいと考えております。